怒涛の夏、コロナの夏

7月の終わりに遠出をしたのが運の尽きで、私もとうとうコロナに捕まりました。
幸い3日間だけ熱を出して寝込み、その後キリストのごとく復活しました。
それにしても、異常気象の熱波、終わらないコロナ禍と戦争、交通機関の尋常じゃない混乱ぶり...今年のドイツの夏はいつになく煮詰まっている感じがします。
見市 知 2022.08.08
誰でも

ドイツの夏がこんなに暑かったなんて...

「私の好きな季節は夏です」

今からかれこれ20年以上前、ドイツの大学の日本学科で日本語会話の授業を聴講したとき、こんな会話練習がありました。

先生が「あなたの好きな季節はいつですか?」と聞き、学生は自分の好きな季節を答えます。この時、圧倒的大多数のドイツ人が「夏が好きです」が答えていました。

顔見知りだった日本語の先生が私にも同じ質問をしたとき、私が「冬が好きです」と答えたら、ドイツ人学生の皆さんがどよめいていました。

20年以上前、ドイツの夏は今ほど暑くはなくて短くはかなく、そして冬は今よりも寒くて暗かった記憶があります。

前置きが長くなりましたが昨今では、ドイツも含めて欧州の夏も摂氏40度を超える日が現れるようになりました。そのような炎暑の中にいて、ふと昔の日本語の授業を思い出すことがあります。今でも彼らは「夏が好きです」って言うのかなぁと。

一般的に住居の中に冷房設備がないドイツでは、日当たりのいい部屋などに住んでいたら、命の危険に晒される可能性も出てくるわけです。

何年か前にフィンランドで30度超えの暑い日々が続くので、スーパーマーケットが閉店後にお客さんにお店を開放し、冷房設備のある涼しい空間でキャンプするという企画を始めて話題になったことがありましたが、それほどまでに暑い夏という異常事態が昨今、欧州の重要トピックになっている様相です。

さて、私が仕事の用事と友人を訪ねる予定を繰り合わせて、在住しているバイエルン州から600kmほど離れたノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州方面へ出かけようとしていた7月の終わり頃も、ドイツには熱波が訪れていました。

ドイツ鉄道は熱波対策として、注意警報が出ている日のチケットを、無料で他の日に振り替えられるサービスを発表。

私は幸い、熱波のピークの日を避けて移動することができたのですが、今年の夏の鉄道移動の大敵は、実は熱波だけではないことを今回思い知らされることになりました。

鉄道移動の阿鼻叫喚

<ドイツの夏の鉄道移動の大敵>を箇条書きにすると以下のような感じです。

1) 熱波:移動中に体調を崩す人が続出する危険。車中の冷房が壊れているとさらに悲惨

2) 9ユーロチケット:ガソリン価格の高騰を受けて、ドイツ連邦政府が6〜8月まで打ち出した鉄道利用促進キャンペーン。1カ月9ユーロで、近距離交通機関(地下鉄、バス、市電なども含む)乗り放題

3) コロナ禍による人員不足(電車がいきなり運休になる可能性が拡大)

4) 2年ぶりにコロナ規制の緩い休暇シーズン到来!

つまりこの時期に鉄道で移動をしようとすると、熱波の中、冷房が壊れた車両に当たったり、乗るはずの電車が途方もなく遅れたり来なかったりする上、9ユーロチケットの影響と2年ぶりの休暇シーズン到来で、鉄道が尋常じゃない混み方をしているわけです。

まだコロナ禍が終わっていないと言うのに...

しかし我が身を振り返ってみても2年間、遠出を極力避けてほぼ家に引きこもって暮らしていたわけですが、さすがにそろそろそのような生活に嫌気が差していたのと、ワクチンも打ったし、コロナは死ぬ病気じゃないし...みたいな気の緩みはあったと思います。

ドイツ中のみんなが多かれ少なかれそのような認識を持っていたとしたらどうなるのか...?

そして金曜日の午後、NRW州内を移動するため9ユーロチケットでローカル線に乗ったとき、そこには何かが決壊したような光景が広がっていました。

週末なので、大きな荷物を持って大学生が実家に帰ったり、小旅行に出かける人たちである程度混み合うのは普通の時間帯なのですが、この時はもう通常のそれを上回る、東京の山手線のラッシュアワーみたいな乗車率になっていたのです。

しかも百戦錬磨の東京都民と違ってドイツ市民の皆さんの多くは、このような異常な満員電車に耐性がないため、身動きできないほど混んでいるのに車内のトイレに行こうとがんばる人がいたり、入り口付近に留まって他の乗客の乗車を阻んでいる人がいたり、という光景が頻発するわけですね。そしてぎゅうぎゅう混みの車内で3時間、ほぼずっと誰かしら赤ちゃんが泣き叫んでいました。

ちなみに車内ではマスク着用義務がありますが、駅構内やプラットフォームではその必要はありません。

この怒涛の3時間移動を経た3日後、私は発熱してコロナ陽性となりました。

旅先でコロナ陽性になった

旅先でコロナ陽性になった私なわけですが、しかもはた迷惑なことに、友人宅に宿泊中でした。

セルフテストで陽性が分かった時に彼女が「治るまでいていいよ」と言ってくれた言葉を、私は一生忘れないと思います。

結果的に、数日後に彼女も陽性になってしまい、私が伝染させてしまったことは明らかなのですが、それでも嫌な顔一つしないで献身的にもてなしてくれて、食事を作ってくれました。

途中から、快復した私と陽性になった彼女が交代して、私が買い物に行ったり食事を作ったりするようにして、ほんの少しだけ恩返しをしてから帰ることができました。

時系列を整理しますと...

7/22(金)NRW州内のローカル線で3時間、満員電車を経験

7/24(日)咳が出始める

7/25(月)発熱(38.2度)。セルフテストで陽性に

7/26(火)〜27(水)発熱、咳、吐き気、倦怠感で寝込む

7/28(木)熱が37度以下に下がって起き上がれるようになる

7/29(金)熱が平熱に。倦怠感も解消。起き上がって少し仕事する。この辺りから友人が体調崩す

7/31(日)友人が陽性に。患者とケアラーがチェンジ

8/3(水)PCR検査が陰性に

8/4(木)帰宅

このような感じで合計2週間、泊めてもらいました。

コロナになったのは運が悪かったですが、このような友人関係や境遇に恵まれたことは、大きな幸運だったと実感した次第です。

一方で、コロナで寝込んでいる間に、スマホでコロナ関連の情報収集をしている中、海外出張者のコロナ感染の記事が目に止まりました。

作家の川上未映子さんが実際に経験した話をもとに取材されている内容でしたが、日本国外でコロナに感染してしまった場合、検査結果が陰性になるまで飛行機に乗ることができないという事態が起こります。

そうすると、多くの人がホテルでの延泊を余儀なくされ、外国で病気になるだけでも心細いのに、さらに大きな経済的負担や不便を強いられることになるという話。

こういった事態に備えて有効な旅行保険に入ったり、快復後にテストで陰性が出なくても「領事レター」を発行してもらえれば飛行機に乗れることなど、記事には有益な情報が盛り込まれています。

そういえば少し前に、フランクフルトにある友人の勤めている会社で出張者がコロナ陽性になり、さらに現地社員の間でも複数の感染者が出て、大混乱したという話を聞きました。

その友人の社内では今や「海外出張者のコロナ感染率は80%」と言われているらしいです。

ワクチンがある程度普及した今、当初のように「命を落とす病気」の可能性は下がっているかもしれませんが、それでもこの強力な感染力。そして罹患したあとがなかなか各方面に厄介なのです。

冬の到来への不安

ドイツ国内では今、秋以降に新たな感染の波が来ることへの懸念が高まっており、さらに軽症でもコロナウイルスの感染力が上がっていることから、医療者やエッセンシャルワーカーの感染も増えており、社会インフラがあちこちで機能しなくなっていることが報じられています。

そして、戦争が始まってから半年が過ぎようとしているのに、収束する気配を見せないウクライナ・ロシア問題。

ドイツではロシアからの輸入に頼っていたガスが、今年の冬には不足する可能性が高まっています。

怒涛の夏が終わった後も、冬の到来に戦々恐々の日々が続きそうです。

混沌とした世の中で、これまでの秩序やシステム、価値観の機能不全を、私たちは目の当たりにしています。

何かが決壊し、破壊されることは、新たな秩序の構築、再生の始まりであると思いたい。

おりしも私と同時期に日本でコロナ陽性になった古い知己のジャーナリストの方と、メールでそんなやり取りをしました。

【参考記事】

海外でコロナに...帰国できない知人 ー 川上未映子さんが見つけた奥の手(伊藤恵里奈, 朝日新聞デジタル, 2022年7月24日)

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