ワクチンの順番がいきなり回ってきた
それまでの年齢(60歳以上優先)、職業、病歴などの優先順位が撤廃されて、すべての人が平等に申し込めるようになりました。
最初は混乱しそうだし、私はもう少し後でもいいやと思っていたのですが、なんと幸運にも6月16日に1回目のワクチン接種を受けることができました。
「ホームドクターって、決めてる?」
6月に入ってからドイツ人の友人と話しているときに、ホームドクターの話になりました。
ドイツの医療にはホームドクター(Hausarzt)制度というのがあって、これはつまり、各自がかかりつけの主治医を持っているという仕組みです。
自宅近くにある開業医の中で、かかりつけのホームドクターを決めておき、何か具合が悪くなった場合はまずそこに行き、さらなる専門医療機関にかかる場合はホームドクターから紹介状をもらって診療を受ける、という段階を踏みます。
もちろん緊急時の救急医療は存在し、例外もありますが、個人がネットで調べて気軽に専門医療機関や大学病院の予約を取れる日本と比べると、そこにたどり着くまで少し時間がかかる仕組みになっています。

「これはあなたにとっては小さな一刺しです。しかし我々の健康にとっては偉大な一歩です」--バイエルン・ホームドクター連盟のワクチン推奨ポスター。人類初の月面着陸のパロディです
ドイツでは4月に入り、ワクチン接種率が一気に増加したのですが、その背景として国が開設したワクチンセンター以外で、ホームドクターのもとでもワクチンを受けられるようになったことが大きかったと言われています。
たしかに、これまでの繋がりがある主治医との信頼関係や安心感は大きいですし、ワクチンセンターにすべてが集中するよりも、身近な開業医のもとでも受けられるように分散された方が、ワクチン接種のスピード感と効率が上がりそうです。
しかし私は、6年前から住んでいるバイエルン州の町で、これまで特定のホームドクターというのを決めていませんでした。
「ワクチン受けるなら、ホームドクター決めといた方がいいよ」
と友人に勧められて、別の医大生の友人が以前インターンをしたことのある開業医を紹介してもらい、問い合わせて予約を取りました。
とりあえず、「ホームドクターを探しています」と言って6月14日にドクターに面談してもらいました。

ホームドクターの診療所。この部屋の奥でワクチン受けました。
「明後日、ワクチン受けにいらしてください」
その際に「ワクチンを受けたいんですけど」と告げると、「毎週水曜日がワクチン接種の日なので、明後日いらしてください」と2日後にあっさり1回目の予約が取れました。
え、えええーーー?
ワクチン解禁になったとは聞いていたけれど、こんなにいきなり順番て回ってくるものなんですか?というのが私の心の声でした。
もちろん、相当運がよかったと言えるのでしょうが、理由の一つとしてはワクチンの消費期限がありました。
私がワクチンを受けられることになったホームドクターのところでは、人気の高いファイザー/バイオンテック社のワクチン剤を使用していましたが、それでも決まった期日までに申し込み人数が満たされていない場合があるのだそうです。
私が尋ねた2日前の時点で、空きがあったということですね。
実はドイツでは「ワクチン渋滞(Impfungstau)」という事態が一方で起きていて、ワクチンの予約を待っている人が大勢いる一方で、ホームドクターのもとに入荷されたワクチンが、5月半ばの時点で80%しか使用されていないと報じられていました(5月14日付Welt紙)。
副作用が起こる可能性があるとして不人気のアストラゼネカ社のワクチンにおいては、この使用率は68%。
ミュンヘン在住の20代の大学院生の友人は、5月中にすでにワクチン接種を済ませているのですが、これはアストラゼネカ社のものが余っていたからだったとか。
ちなみに、メルケル首相は4月16日にこの不人気ワクチンを率先して受け、安全性をアピールしました(2回目はモデルナ社のワクチンを接種)。この2週間前にはシュタインマイヤー大統領もアストラゼネカのワクチン接種を受けています。アストラゼネカは60歳以下にごくまれに副作用の血栓が起こるケースが報告されていますが、メルケル首相は66歳、シュタインマイヤー大統領は65歳です。

2週間前には、シュタインマイヤー大統領も同社のワクチンを受けました。
tagesschau.de/inland/merkel-… Merkel und Scholz mit AstraZeneca geimpft Kanzlerin Merkel und Vizekanzler Scholz haben Corona-Impfung www.tagesschau.de
移動式ワゴンでワクチンキャンペーン
5月に入ってからドイツ国内で始まったものの一つに、移動式ワゴンでワクチンを提供するワクチンキャンペーンがあります。
これが最初に実施されたのはケルン市で、コロナ感染者数の突出していた低所得者層が多い地域が対象となりました。これらの地域の特徴としては、移民や難民などの外国人が多く、ドイツ語の情報が適時に行き渡っていないこと、荷物配達やスーパーの店員などのエッセンシャルワーカーが多いこと、狭いスペースに大勢の家族で暮らしているケースが多いことなどが挙げられていました。
そこに移動式ワゴンでワクチンチームが乗り付け、1回のみで接種が完了するジョンソン&ジョンソン社のワクチンが予約不要、無料で提供されました。
その後、同様のキャンペーンがドイツ各地で展開されていますが、ハイデルベルクで移動式ワゴンの列に並んだ知人は、「4時間待ちなのであきらめた」と言っていました。
それ以外では、所属する企業や大学がワクチン接種をオファーするケースも増えており、ワクチンセンターに申し込んでもなかなか予約が取れなかったベルリンの友人(大学生)は、ベルリン自由大学ですぐにモデルナ社のワクチン接種を受けられたと話していました。
収束に向かっていく実感
さて、私は6月16日に1回目のワクチン接種を無事に受けることができました。
副反応があったかといえば翌日半日くらい、ぐったりしていたことと、注射を受けた左手が上げられなかったことくらいですが、熱が出たわけでもなく、午後には回復しました。
予防接種後は、食事制限も生活制限も特にありませんでした。
2回目は7月末の予定です。

ドイツのワクチン手帳。右上の枠に「COVID-19」が新たに加わった
ロベルト・コッホ研究所(RKI)の発表によると、6月24日の時点で1回目のワクチン接種を受けた人の数はドイツ国内で4344万7927人(52.2%)、ワクチン接種が完了している人の数は2783万6951人(33.5%)とのことです。
ちなみにRKIによると、コロナウイルスに対しては、感染症が流行しなくなる状態の「集団免疫」を獲得するために、人口の70%のワクチン接種が必要と見られているそうです。
ドイツ全体の新規感染者数は1008人、7日間指数(人口10万人に対しての7日間の新規感染者数)は7まで下がりました。
ちょうど1カ月前は、この指数が50を下回ればロックダウンが解除できると話題になっていたところなので、隔世の感があります。
まだまだ油断はできないですが、コロナ禍が収束に向かっている実感が日々あり、カフェに座ったり、友人に会ったりできる、市民生活が徐々に戻ってきています。

6月14日からはデジタル・ワクチンパスポートの導入もスタートしました。これまではコロナの抗原検査が行われていた薬局前のブースに「デジタル・ワクチンパスポートの発行をしています」の表示が登場
【参考記事】
「ケルンで困窮地区に移動式ワクチン・プロジェクト」公共放送WDR(2021年5月4日)
「これまで何人がコロナ・ワクチンを受けたのか?」公共第2放送ZDF(2021年6月24日)
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